お前のものは俺のもの

今日は「ジャイアンとスネ夫の声でギャングスタラップ作った」という動画を見ていた。ジャイアンといえば「お前のものは俺のもの」という名言で有名な殿方である。一方スネ夫はいつもモブキャラ扱いで、悲しいかな自分のような人間はどうしてもこういうキャラを追ってしまう。

 

日常の中では他人に自分のおススメを言わないといけないシチュエーションがある。しかしそれほど文脈を共有していない他人に対して、嗜好を汲み的確なアドバイスをするのは結構難しい。特に難易度が高いのは、「おススメの音楽教えて」という一言である。

自分が何かをおススメされるのはいい。当方は小さい時から自分の傾倒しているバンドが酷評されるとか、それまで全く興味のなかったジャンルを急に好きになって感覚が拡張された気になるとか、そういう体験を沢山してきたので、ある程度どんな球が来てもそれなりに受け取って楽しめる。(昔そこまで音楽を掘らない純粋な心を持った友人にJungle Smileと80's歌謡アイドルを延々とおススメされたことがあるが最高だった。)

しかし対一般人だと中々そうもいかない。特にその人が既に好いているものがあると、そのハードルの高さたるやエベレスト級である。そういう時に二番煎じが一番手を凌駕することなんて99%有り得ない。

 

では皆さんはこのエベレストをどう超えているのか。良くあるのが、例えば今なら「あいみょん良いよ」「米津良いよ」あたりのラインだろう(ちなみに自分も米津さんは大大大好き、特に「YANKEE」)。確かにそのセリフを言う本人さんのお気に入りではあるだろうが、そのお気に入りの座を得るためには、先立ってさらに別の人からその本人さんへおススメされるという体験を経ていることがたぶん大切。雑誌で誰かが推してた、チャートで一位を獲った、憧れの人がおススメしてくれた、などなど。自分一人で調べて探し出した「あいみょん」より、この間友人に勧められた「あいみょん」の方が他人には勧め易い。たぶん自信が出るし、不思議なことにちょっと自分の責任が軽くなる気もする。もしかしたら自分が本当に好きなものを勧めて拒絶されると傷つくから、それを本能的に回避しているのかもしれない。口コミが大事と言われる所以であろう。何かを貶す物言いにも、同じメカニズムが働くと思う。

(似た現象として、「何が好きなの?」と言われた時に、自分が本当に好きなものを何故か言えずに、「他人が以前好きだと言っていたもの」をそのまま借用して自分の好きなものとして挙げてしまう、というのもありがち。)

 

それとは少し違う話かもしれないが、絵でも音楽でも何でも、「もうやり尽くされて本質的に新しいものは何もない」という言葉をたまに聞く。嫌な言い方だが、当たっている面もあると思う。何かをやろうと思ったら、勉強だってスポーツだってまずは真似から入る。

言葉だってそうだ。自分が何か考えを言う時、それがどこまで他人の受け売りでないと言い切れるだろうか。「今の政府ダメだ」「あのラーメン屋美味いよ」「◯◯さんって実は××でヤバいらしいよ」最初に言い出したのは自分か?そういうこともあるだろうが、そうでないことは結構多い。無自覚なまま、他人の意見を自分の中に取り込んで、それを自分の意見だと思っていることってあると思う。どこまでが「自分」のアイディアかなんてわからない。

「絶対的に新しいものはないが、要素の組み合わせがその人の個性を生む」という言葉もたまに聞く。これも当たっている面はあるんだろうな。個人的にはその言い方もあまり好きじゃないけれど。

 

自分の実感としては、「何やってもすぐ上手くいっちゃう人」というのは長続きしにくいと思っている。逆に、「何が失敗か」をよく知りよく考えている人は息が長いと思う。ただ、成功への道程に方程式はなくて、恐らく反射神経みたいなものが同時に必要。だから、失敗から多くを学びつつも、いざとなったら思い切って跳べることが大切なんじゃないかと思う。それまでの準備や蓄積はとても大事だと思うけれど、現場で何が新しいとか古いとか、何が自分で何が自分じゃないとか、そんなの考えている暇はたぶんない。

「自分」の持っている考えの大部分が「他人」由来の考えで出来ているとしたら、自分を参照している間に他人を参照していることになる。それは大切なことだけれど、それだけで100%決まるならつまらない。最後は自分より速く走らないといけないのだ。

Fishmansの「チャンス」という曲の歌詞に「いっしょうけんめい 話すから好きさ」というシンプルな一節があり、これは自分のお気に入りだ。

 

話を戻すと、ジャイアン御大は「お前のものは俺のもの」と宣っているが、これは主に資産について言っている(と思う)。その実彼は、精神的には意外と脆く、ちょっとしたことでプライドを傷つけられ易い気がする。田舎のヤンキーとかにもこういうタイプは多い気がする。

その点スネ夫は、ちっぽけな自分にとらわれず他人の意見を自分の意見としてすんなり受け入れる。そこから生まれる成果はともかくとして、「お前のものは俺のもの」をより体現しているのはスネ夫かもしれないのである(?)。

 

相変わらずそんなアホなことを考えながらふとNasのThe World is Yoursを思い出して聴いていた。収録アルバム「Illmatic」は言わずと知れたラップ最高峰のアルバム。訳はググればすぐ出てくるのだが、「俺は表現のための大統領が必要だ(=紙幣と掛かっているらしい)」、「世界はお前のもの/俺のもの」等々と唄う名曲である。

なお音楽の個人的な好みでいうと、同アルバム内で共演しているAZのソロ名曲「Rather Unique」なんかはこれ以上に最高である。

(じゃあそれを友人に自信を持っておススメできるか?いやー米津玄師の「TOXIC BOY」とかおススメ、、、)(1/5)